投信の取り崩しで恒久FIREのための「必要元本」を1割減らす【導出編】
#数学#投資信託#税金
定義一覧
- t:税率
- θ:利回り
- B 円投資時の n 年目手取り:
- 分配型:d=(1−t)θB
- 再投資型:dn=d+t(1+θ)−nθB
- 毎年手取り D 円を得る元本:
- 分配型:Y=(1−t)θ1D
- 再投資型:Z=∑k=1∞(1−t)(1+θ)k+t1D≃(1−2t)Y
定義
本記事で用いる語句・記号を定義します.
語句
- 分配型:配当金や分配金を定期的に投資家へ払い出す仕組み,またはその商品
- 再投資型:分配金を払い出さず,ファンド内部で自動的に再投資する仕組み,またはその商品(投資信託)
- 手取り額:分配金受取額または資産売却益から税金を差し引いた金額
記号
共通設定
- t:分配金および譲渡益に対する共通の税率
- 同一の指数に連動
- 運用益以外の要素(信託報酬等の保有コスト)は無視
分配型の仮定
- 年1回の分配金利回りを θ とし,支払われる分配金のみを生活費に充当
- 価格は分配金落ち後,次回の支払いまでに元の水準まで回復(価格不変の仮定)
再投資型の仮定
- 分配金は全額内部再投資され,価格は年利 θ で幾何級数的に上昇
- 購入時価格を p とすると, n 年後の価格は (1+θ)np
- 毎年,分配型と同等の手取り額を得るために資産の一部を売却(取り崩し)し,生活費に充当
同額投資時の手取り比較
分配型商品を B 円分購入し,売却せずに分配金のみ受け取る場合,
- n 年目の手取り額は d=(1−t)θB 円(n によらず一定)
- n 年目の累計手取り額は Wn=nd=n(1−t)θB 円
再投資型商品を B 円分購入し,分配型と分配金(額面)と同額だけ資産の一部を売却する場合,
- n 年目の手取り額は dn=d+t(1+θ)−nθB 円
- n 年目の累計手取り額は Xn=∑k=1ndk=Wn+{1−(1+θ)−n}tB 円
導出
分配型について
分配金利回り θ なので,税引き前で毎年 θB の分配金が得られます.
これに対し t⋅θB 円の税金が発生するため,税引き後の手取り額は d=(1−t)θB 円となります.
累計手取り額は Wn=nd=n(1−t)θB 円となります.
再投資型について
n 年目の取り崩し額(額面)は,分配型の税引き前分配金額に合わせるため θB 円です.
購入時の商品価格を p とすると,n 年後の価格 pnは pn=(1+θ)np です(取得価格は p のまま).
n 年目の売却口数を rn とすると,取り崩し額を価格で割ることで rn=pnθB=(1+θ)npθB となります.
取得費用は rnp ,売却額(額面)は rnpn なので,
譲渡益 gn は次のように計算されます:
gn=rnpn−rnp=θB−rnp=θB−(1+θ)npθBp=θB{1−(1+θ)−n}
よって,n 年目の手取り額 dn は,取り崩し額 θB から税金 tgn を差し引いた額となります:
dn=θB−tgn=θB−tθB{1−(1+θ)−n}=(1−t)θB+tθB(1+θ)−n=d+t(1+θ)−nθB
また累計手取り額 Xn は,
Xn=k=1∑ndk=k=1∑n{d+t(1+θ)−kθB}=Wn+tθBk=1∑n(1+θ)−k=Wn+{1−(1+θ)−n}tB
となります.
同一の手取りを得るための元本比較
分配型商品で毎年税引き後 D 円の分配金を得るために必要な投資元本を Y 円とすると,
Y=(1−t)θ1D再投資型商品で取り崩しにより毎年税引き後 D 円を恒久的に得るために必要な投資元本を Z 円とすると,
Z=k=1∑∞(1+θ)k1fk=k=1∑∞(1−t)(1+θ)k+t1Dここで,fn は n 年目の取り崩し額(額面)であり,
fn=1−t+t(1+θ)−n1D
導出
分配型について
分配金利回り θ なので,税引き前で毎年 θY の分配金が得られます.
これに対し t⋅θY 円の税金が発生するため,税引き後の手取り額は (1−t)θY 円となります.
恒久的に毎年 D 円の手取りを得るためには,(1−t)θY=D を満たす必要があるため,必要な元本は Y=(1−t)θ1D 円となります.
再投資型について
取り崩し額 fn から考えます.
n 年後の価格を pn=(1+θ)np と表記します(取得価格は p).
n 年目の売却額 fn に対して取得費用は pnpfn なので,譲渡益は fn−pnpfn となります.
よって,税金 tfn(1−pnp)=tfn{1−(1+θ)−n} が発生し,手取り額は
fn−tfn{1−(1+θ)−n}=fn{1−t+t(1+θ)−n}
となります.
恒久的に毎年 D 円の手取りを得るためには,fn{1−t+t(1+θ)−n}=D を満たす必要があるため,
fn=1−t+t(1+θ)−n1D
となります.
次に,必要な元本 Z を考えます.
n 年目の取り崩し直後の残高を Zn とすると,Z0=Z であり,n≥1 のとき Zn=(1+θ)Zn−1−fn となります.
一般項を求めると,
Zn=(1+θ)n(Z−k=1∑n(1+θ)kfk)
となります.
Zn′=(1+θ)nZn とおくと,漸化式の両辺を(1+θ)nで割ることで Zn′=Zn−1′−(1+θ)nfn となります.
この式を n 回繰り返すと,Zn′=Z0′−∑k=1n(1+θ)kfk となります.
ここで Z0′=Z なので,Zn′=Z−∑k=1n(1+θ)kfk となります.
両辺に (1+θ)n をかければ Zn の一般項が得られます.
毎年取り崩すためには,各年の取り崩し直後の残高 Zn が正でなければなりません(Zn≤0 となったら翌年以降は取り崩せないため).
つまり,
Z>k=1∑n(1+θ)kfkfor all n≥1
を満たす必要があります.
この条件を満たす最小の Z が必要な元本となりますが,右辺は n に対して単調増加であるため,n→∞ としたときの極限値を考えれば十分です.
よって,必要な元本 Z は次の式で与えられます.
Z=k=1∑∞(1+θ)kfk=k=1∑∞(1−t)(1+θ)k+t1D
この級数が収束することは次の主張で扱います.
残高推移と収束
毎年税引き後 D 円の手取額を得るために必要な投資元本は,
- 分配型商品:Y=(1−t)θ1D
- 再投資型商品:Z=∑k=1∞(1−t)(1+θ)k+t1D
であるが,運用期間を十分長くすると,Z は Y に収束する.
導出
Zn=(1+θ)n(Z−k=1∑n(1−t)(1+θ)k+tD)
より,Z=∑k=1∞(1−t)(1+θ)k+t1D を代入すると,
Zn=(1+θ)nk=n+1∑∞(1−t)(1+θ)k+tD
となります.これが n→∞ で Y に収束することを示します.
まず,(1−t)(1+θ)k+t≥(1−t)(1+θ)k より,
k=n+1∑∞(1−t)(1+θ)k+tD≤k=n+1∑∞(1−t)(1+θ)kD=(1−t)Dθ(1+θ)n1=(1+θ)nY
次に,k≥n+1 のとき (1−t)(1+θ)k+t=(1+θ)k{1−t+t(1+θ)−k}≤(1+θ)k{1−t+t(1+θ)−n} より,
k=n+1∑∞(1−t)(1+θ)k+tD≥k=n+1∑∞(1+θ)k{1−t+t(1+θ)−n}D=1−t+t(1+θ)−nDθ(1+θ)n1
よって,
(1−t)θ+tθ(1+θ)−nD≤Zn≤Y
上式の左辺は n→∞ で (1−t)θD=Y に収束するため,はさみうちの原理より,Zn も Y に収束します.
元本削減の効果
毎年税引き後 D 円の手取額を得るために必要な投資元本は,
- 分配型商品:Y=(1−t)θ1D
- 再投資型商品:Z=∑k=1∞(1−t)(1+θ)k+t1D
であるが,Z≃(1−2t)Y と近似できる.
導出
x の単調減少関数 h(x) を次のように定義します.
h(x)=(1−t)(1+θ)x+tD
これを用いると,Z は次のように評価できます.
Z=k=1∑∞h(k)≤∫0∞h(x)dx=tln(1+θ)Dln(1−t1)
y=(1+θ)x とおくと dx=yln(1+θ)dy より,
∫0∞h(x)dx=∫1∞(1−t)y+tDyln(1+θ)1dy=(1−t)ln(1+θ)D∫1∞y(y+1−tt)dy=tln(1+θ)D∫1∞(y1−y+1−tt1)dy=tln(1+θ)D[lnyy+1−tt]y=∞y=1=tln(1+θ)Dln(1+1−tt)=tln(1+θ)Dln(1−t1)
よって,
YZ≤t1−tln(1−t1)ln(1+θ)θ
ここで,
- θ が小さいとき ln(1+θ)≃θ
- t が小さいとき
t1−tln(1−t1)=−t1−tln(1−t)≃t1−t(t+2t2)=(1−t)(1+2t)≃1−2t
となるので,
YZ≤1−2t
が得られます.
同様に,
Z≥∫0∞h(x+1)dx=∫1∞h(x)dx=tln(1+θ)Dln(1+(1−t)(1+θ)t)
YZ≥t1−tln(1+(1−t)(1+θ)t)ln(1+θ)θ≃t1−t{(1−t)(1+θ)t−21(1−t)2(1+θ)2t2}=1+θ1−21(1−t)(1+θ)2t≃(1−θ)−21t(1+t)(1−θ)2≃1−θ−21t(1−2θ)≃1−θ−21t
必要元本を過小評価しないよう上界の評価を採用することで,目的の近似式 Z≃(1−2t)Y が得られます.
おわりに
級数やはさみうちの原理などの基本的な数学的手法を用いて,必要元本の違いを導出する過程は興味深いものでした.
ご覧いただきありがとうございました.