【投資・数学】72,115,144の法則をより厳密に導出

【投資・数学】72,115,144の法則をより厳密に導出

#数学

💡 概要

72の法則とは,「年利 RR %の商品に一括投資して複利運用すると,およそ 72R\frac{72}{R} 年後に資産が2倍になる」という法則です.

72という数は ln269.3\ln 2 \simeq 69.3 の100倍に起因します(資産が2倍になる条件から自然に現れます). 69.3を72に置き換える理由に,「多くの年利(1, 2, 3, 4, 6, 8, 9%など)で割り切れて計算しやすい」という理由を挙げる記事を見かけます.

本記事では,より厳密な考察を経て72の妥当性を考えます(同様に115,144の法則も扱います).

記号

  • θ\theta:年利(xx 年で商品価格が (1+θ)x\left(1+\theta\right)^{x} 倍になる)
  • AA:一括投資の元本
  • a(x)a(x):一括投資してから xx 年後の資産額
⚠️ 注意

冒頭の 72R\frac{72}{R} において RR は百分率(%表記)での年利を表します.つまり R=100θR=100\theta であり,

72R=72100θ=0.72θ\frac{72}{R}=\frac{72}{100\theta}=\frac{0.72}{\theta}

と書き換えられます. 以下では,計算の見通しをよくするため R{R} を一切利用せず, θ\theta のみ扱い 0.72θ\frac{0.72}{\theta} について考えます.

資産額が2倍になるまでにかかる年数

元本 AA を投資してから xx 年後の資産額 a(x)a(x)

a(x)=(1+θ)xAa(x)=(1+\theta)^{x}A

です.資産額が元本の2倍(a(x)=2Aa(x)=2A)となるとき,xx

(1+θ)x=2(1+\theta)^{x}=2

を満たします.両辺の自然対数をとると

xln(1+θ)=ln2x\ln (1+\theta)=\ln 2

となるので,資産額が元本の2倍になるまでにかかる年数 xx

x=ln2ln(1+θ)x=\frac{\ln2}{\ln (1+\theta)}

と表せます. 以降,xx を上式で定まる θ\theta の関数として扱います.

📄 72の法則のよくある導出

θ\theta が十分小さいとき,ln(1+θ)θ\ln(1+\theta)\simeq\theta となるので,ln20.693\ln 2\simeq 0.693 と合わせて x0.693θx\simeq \frac{0.693}{\theta} が成り立ちます. ここで0.693を,多くの年利で計算しやすい0.72に置き換えれば「72の法則」が得られます.

(近似誤差 θln(1+θ)\theta - \ln(1+\theta) を評価していないので,0.693を0.72に置き換える根拠が不明瞭です)

誤差項を使った導出

ここからは,より厳密な導出を考えます.

x=ln2ln(1+θ)x = \frac{\ln2}{\ln (1+\theta)}

を,適切な定数 CC を用いて Cθ\frac{C}{\theta} で近似することを目指します.

まず,ln(1+θ)\ln(1+\theta)θ\theta の2次の項まで展開します.

ln(1+θ)=θθ22+o(θ2)=θ(1θ2+o(θ2)θ)=θ{1(θ2+o(θ))}\begin{align*} \ln(1+\theta) &= \theta - \frac{\theta^2}{2} + o(\theta^2) \\ &= \theta \left(1 - \frac{\theta}{2} + \frac{o(\theta^2)}{\theta} \right) \\ &= \theta \left\{1 - \left({\color{red}\frac{\theta}{2} + o(\theta) }\right) \right\} \\ \end{align*}

θ\theta でくくっているのは,逆数をとって 1/θ1/\theta が自然に現れるようにするためです.

📄 ランダウの記号

小文字のオーはランダウの記号と呼ばれ,定数 nn に対して o(θn)o(\theta^n)

limθ0o(θn)θn=0\lim_{\theta \to 0} \frac{o(\theta^n)}{\theta^n} = 0

を満たします.例えば,

o(θn)θ=o(θn1),o(o(θn))=o(θn)\frac{o(\theta^n)}{\theta}=o(\theta^{n-1}),\quad o(o(\theta^n))=o(\theta^n)

などが成り立ちます.

11t=1+t+o(t)\frac{1}{1-{\color{red}t}}=1+{\color{red}t}+o({\color{red}t})を用いて,

1ln(1+θ)=1θ11(θ/2+o(θ))=1θ{1+(θ/2+o(θ))+o(θ/2+o(θ))}=1θ(1+θ2+o(θ))=1θ+12+o(1)\begin{align*} \frac{1}{\ln(1+\theta)} &= \frac{1}{\theta}\cdot \frac{1}{1 - \left({\color{red}\theta/2 + o(\theta)}\right)} \\ &= \frac{1}{\theta} \left\{1 + \left({\color{red}\theta/2 + o(\theta)}\right) + o\left({\color{red}\theta/2 + o(\theta)} \right) \right\} \\ &= \frac{1}{\theta} \left(1 + \frac{\theta}{2} + o(\theta) \right) \\ &= \frac{1}{\theta} + \frac{1}{2} + o(1) \end{align*}

以上から次の式が得られます.

x=ln2ln(1+θ)=ln2θ+ln22+o(1)x= \frac{\ln2}{\ln (1+\theta)} = \frac{\ln2}{\theta} + \frac{\ln2}{2} + o(1)

o(1)o(1)θ0\theta \to 0 のときに 00 に収束する項です.

👁️ 観察

「よくある導出」において現れた ln2θ=0.693θ\frac{\ln2}{\theta}=\frac{0.693}{\theta} で近似すると,θ\theta が十分小さいくても実際の値より ln22=0.347\frac{\ln2}{2}=0.347 年程度少なく見積もられることがわかります. 逆に,この誤差の存在を理解していれば「69の法則」でも十分に近似できることがわかります.

上式右辺に定数項 ln22\frac{\ln2}{2} が存在するため,「任意の年利 θ\theta に対して x=Cθ+o(1)x= \frac{C}{\theta} + o(1) となるような定数 CC」は存在しません. そこで,「現実的な年利 θ\theta に対して xCθx\simeq \frac{C}{\theta} となるような定数 CC」を探します.

x=(1+θ/2)ln2θ+o(1)x= \frac{\color{blue}(1+\theta/2)\ln2}{\theta} + o(1)

と変形できるので,(1+θ/2)ln2{\color{blue}(1+\theta/2)\ln2} を定数で近似すればよいことがわかります. そこで,株式の年利として不自然でない 9%9\% を採用し,そのときの値を CC とすれば

C=(1+0.09/2)ln2=1.045ln2=0.72434C={\color{blue}(1+0.09/2)\ln2} = 1.045\ln2 = 0.72434\cdots

となり,0.72に近い値が得られます.

一般化:資産額が k 倍になるまでにかかる年数

これまでの議論を一般化すると,年利 θ\theta のもとで資産額が元本の kk 倍になるまでにかかる年数 xkx_k は,

xk=lnkln(1+θ)=(lnk)(1+θ/2θ+o(1))=(1+θ/2)lnkθ+(lnk)o(1)\begin{align*} x_k &= \frac{\ln k}{\ln(1+\theta)}\\ &= (\ln k) \left( \frac{1+\theta/2}{\theta} +o(1) \right)\\ &= \frac{\color{blue}(1+\theta/2)\ln k}{\theta} +(\ln k)o(1) \end{align*}

と表せます. θ=9%\theta=9\% のときの (1+θ/2)lnk\color{blue}(1+\theta/2)\ln k の値を CkC_k とすれば,

xkCkθ(Ck=1.045lnk)x_k \simeq \frac{C_k}{\theta}\quad (C_k=1.045 \ln k)

となります.

k=2,3,4k=2,3,4 の場合の定数 CkC_k を次の表にまとめます.

kkCkC_k法則の数字
220.724340.72434\cdots72 (72の法則)
331.14801.1480\cdots115 (115の法則)
441.44871.4487\cdots144 (144の法則)

このように,よく知られた72・115・144の法則などは,株式として現実的な年利のもとで年数を割り算で近似した結果であることがわかります.

シミュレーター

近似精度検証シミュレーター

目標倍率 (k):
表示範囲:
厳密解
8.04
単なる1次近似 ln k/θ
7.70
法則近似 C_k/θ
8.05
定数 100C_k
72.43

※ 「周辺を拡大 (θ±2%)」ボタンを押すと,選択中の年利を中心に ±2% の狭い範囲で長方形領域に拡大します.

ご覧いただきありがとうございました.